埼玉森林インストラクター会Forest Instructor Saitama

イベント報告

2008年4月20日 埼玉県民の森観察会
早春の森を歩く
報告・木口明浩

■天候:くもり時々雨
■テーマ:早春の森
■案内:高杉 茂、木口明浩
■主 催:(社)埼玉県農林公社

街ではサクラが散り初夏を迎えようとしている頃、山々にようやく遅い春がやってきます。木々の芽吹きは、まだまだこれからといったところ。そんな高木たちがまだ眠りから覚めきらないのをよそに、足元の小さな植物たちはあちこちで花を咲かせ、全身で春の訪れを喜んでいました。
日当たりのよい尾根筋には、スミレのなかまが多く見られました。観察できたのは、タチツボスミレ、アケボノスミレ、ニオイタチツボスミレ、エイザンスミレ、ヒナスミレ、ナガバノスミレサイシン、ツボスミレ、ヒメスミレ、アオイスミレ等々…。 それぞれが色とりどりの花弁の衣装と個性豊かな葉を身にまとって、さながら春の新作ファッションショーのようでした。


アケボノスミレ
エイザンスミレ
デイキャンプ場まで歩くと、林床にカタクリやミヤマエンレイソウなどの早春期植物たちが可憐な花を咲かせて待っていてくれました。
昼食後はじっくりとカタクリの観察です。先ずは、外観的な特徴をつかむため、参加者全員が画用紙とペンを持ってカタクリの花をスケッチしました。こうして落ち着いて花と向き合うことでいろいろなことに気づきます。

・1枚だ・けの葉がある。
・花のついている個体は葉が2枚ある。
・葉に紫色の斑点がある。
・花は下を向いて開き、花びら(花被片)は反り返る。
・おしべは6本、めしべは1本(先端は3割)
・花被片は6枚(がく3枚・花弁3枚)ある。

ユリ科の雄しべは6本

続いて、カタクリの生態クイズに挑戦しました。カタクリの寿命、生育の条件、受粉と種子の生産、地下部の様子等々…。1日だけの観察では難しいものを中心に学びました。 カタクリについて少し詳しくなったところで再び観察してみると、これまでとは一味違って見えたはずです。 カタクリをはじめとする早春期の植物たちは、頭上の木々が葉を広げる前に地上の生活を終わらせてしまうため、スプリングエフェメラル(春のはかない生命/妖精)と呼ばれています。光合成によるエネルギー生産を2ヶ月足らずのうちに完了させてしまい、残りの10ヶ月を休眠して過ごすのです。 落葉広葉樹林の変化を見逃さずタイミングよくしかも短時間のうちに芽を出し開花させ、昆虫に花粉を媒介してもらい種子を作りあげ散布してもらうということをやってのけます。 こうしてみると、いたずらに生存競争に走ることなく、効率のよさを優先してメリハリのある生き方を選んだということが分かります。その賢明さに驚かされるばかりです。 また、他の生き物と共存するための知恵と工夫は、周りの生命のこともきちんと配慮していて、その優しさに好感がもてます。 一方、エネルギーの大量消費によって地球温暖化問題を抱える私たちの未来には限界がみえてきました。春の妖精たちの生き方から学ぶべきことがあるような気がしてなりません。

■その他の植物
ミヤマエイレンソウ
ニリンソウ
シュンラン
ヒトリシズカ
アズマイチゲ