埼玉森林インストラクター会
2002年7月13日〜14日

平成14年度
埼玉森林インストラクター会研修会


東京大学秩父演習林見学
報告・木口明浩

 東大の資料によると秩父演習林の面積は、約5756haで、その内訳をみると、人工造林地が全体の13.3%、旧薪炭林を含む二次林が54.3%、原生林が32.4%である。森林は冷温帯と亜寒帯の二つの分布にまたがり多様な樹種によって構成されている。乾性な尾根部はツガの優先する針葉樹、適潤な山腹斜面にイヌブナやブナ、谷沿いの湿潤地にシオジやサワグルミの優先する落葉広葉樹がみられる。

 我々は、樹木園側からアプローチした。歩道はよく整備されていて歩きやすい。また、それぞれの樹木には、樹種名の書かれたラベルが表示されていて訪問者を助けてくれた。

 私の印象に残ったのは、アワブキ科のミヤマハハソで、この時、初めて実際に目にした。「ハハソとはコナラのことで、葉の形が良く似ているんですよ。」と近くにいた技官が解説してくれた。なるほど言われてみれば、コナラの葉を少し大きくした感じだ。つまり「ミヤマハハソ」=「深山のコナラ」という意味だ。後で調べると、ハハソは万葉集にも出てきていて古くは「ホウソ」と書いたらしいことが分かった。

 魅力的だったのはブナだ。力強く大きく枝を伸ばし、それでいて独特の軟らかな白い樹肌を兼ね備えてみずみずしい。その姿は、観るものの心を奪った。これだけの環境教材を身近に相手にできる研究者や学生をうらやましく思った。

 しばらく歩くと、苔むした斜面に出た。シオジとサワグルミの混成林が広がっていた。それまでの景色と一変した異様な雰囲気の谷だった。そこは「シビトクボ」と呼ばれるところで、私はその言葉を聞いた瞬間、勝手に「死人窪」の漢字を当てて連想してしまったが、その真偽は確かめていない。ただ、なんとなく淋しくて永い時間を感じさせる場所だった。足下をみると、まだ薄緑色で熟していないシオジの翼果が落ちていた。形こそ良く似ているが、アオダモの翼果と比べ、全体に大きい。

 東大は、シードトラップを利用した落下調査を1988年から行っていて、それによると約2年おきに豊作、不作を繰り返していることが解ったという。昨年(2001年)は、不作年だったので、今年は、豊作年にあたるだろうと予想していた。このような生態も聞くのは簡単だが、その裏には長い時間をかけた地道なデータ収集作業によって裏づけられたものであることを再認識した。

 サワグルミとシオジは、葉も樹肌もよく似ていて驚く。両者の見分け方だが、小葉が9~21枚で互生なのが、サワグルミ。小葉が7~9枚と少なく対生なのがシオジだ。樹皮はサワグルミの裂け目の方がやや幅広い。とはいうものの慣れないとその判別は難しい。

 そして、最も記憶に残ったのがオノオレカンバだ。斧が折れるほど硬いといわれるこの木の比重は0.94で、目の詰まった部分だと、水に沈むというからその堅さは想像以上だ。以前、どこかの森で見た時には、気づかなかったが、樹肌が特徴的だった。黒紫色の丸い大きな斑紋が、いくつもの輪を描き、まるで大蛇の胴体を彷彿させた。貴重な樹木だからその成長を見守りたいし、今後は、増やしていくことも考えるべきだろう。

 訪れた当日は、その数日前の台風の影響で川の水量が多く、歩きの障害となったが、それがかえってアクセントとなり、景色の変化を楽しませてくれた。源流域のマイナスイオンたっぷりの冷気は、疲労した心身をリフレッシュさせてくれ心地よかった。 秋には、赤や黄色に染まった落葉広葉樹に混じり、ツガ、モミなどの緑色が映えて、美しいことだろう。私は今から密かに紅葉を楽しみにしている。

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