埼玉森林インストラクター会


チョウのコラム



text by 神座 侃大


 旧大宮市の北方、見沼たんぼでの観察会のおり、見沼代用水の流れに沿って歩いていると、岸のカラムシについているアカタテハの幼虫が、盛んに頭を振っている。あまりに頭を振るのが面白く、しばらく見とれていた。チョウの幼虫と親とは、姿形がかけ離れているので、幼虫から親の姿を想像するのはむづかしいが、アカタテハは分かる。アカタテハの幼虫の腹部の模様は、親の後翅の亜外縁にある模様とよく似ている。アカタテハの食草は、イラクサ科のイラクサ、ヤブマオ、カラムシなどである。


ヤブマオ

 カラムシは越後上布の原料となる。カラムシの繊維を爪先で裂いて、髪の毛ほどの太さにする。長さ二十センチほどの二本を撚って機屋(はたや)結び(ハイカラな言い方はシートベント)で繋ぐ。結び目は歯で噛んでならす。長く繋いだものを、巻きとって灰汁や米のとぎ汁で煮込む。その上でサラシ粉を溶かした水で漂白。機を織るのはイザリ機を用い、経糸(たていと)を腰にくくりつけて強弱を調整する。一日に五寸ほどしか織りあがらない。仕上げは足で踏み布をなじませ、地下水に浸してから「雪さらし」をする。雪さらしは雪が解けて蒸発するときに発生するオゾンが布を漂白するという。年間七十反ほどの生産量しかない。 1200年前からの麻織物で、国の無形文化財になっている。保存協会会長は、「文化財というのは、もう日常ではないということ」と言う。現在雪さらしをするのは一軒だけになり、糸作りの後継者はいない。1200年も続いてきた伝統の技を、さてどうしましょう。


越後上布

 シジミチョウ科やタテハチョウ科の中には、よく似ていて区別のつきにくいものが多くいる。これらのチョウがなぜ混血しないのか疑問であった。たまたま研修会で訪れた多摩動物公園で解説にあたった高塚博成氏にこのことを質問してみた。「チョウは自然界では混血しない」とのこと。人工的に交配すればできないことはなく、例としてクロアゲハとシロオビアゲハとの混血をやってみたがF1はできるがF2はできないことである。このようにチョウの世界は複雑で、中生代以降、顕花植物の進化と共に、チョウの種の分化が、かなり早い時期に始まったものと考えられ、これが混血しない原因であろうと考えている。


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